特殊経由線

目次

  1. 経由印字
    1. はじめに
    2. マルス端末への入力方法
    3. 特殊経由線表記と路線名表記
      1. 概要
      2. 内方
      3. 外方
      4. 通過
      5. 別路線
      6. 接続駅印字
      7. まとめ
    4. 例外
    5. 特殊経由線入力とカナコード入力(ME形端末のみ)
  2. 特殊経由線とは?
    1. 路線名表記では経路が不明確になる場合
    2. マルス経由線と特殊経由線
    3. 特殊経由線一覧
    4. 予讃本線と内子総称線
  3. 経路補正が行われた場合
    1. はじめに
    2. 内房線
    3. 埼京線
    4. 不思議な特殊経由線表記(埼京線+常磐線)
  4. 参考

A. 経由印字

a. はじめに

特殊経由線が設定されている線区を経由する乗車券(マルス券)では,経由欄に「東海道・根岸線・東海道」のように路線名が印字される場合も,「東海道・桜木町・本郷台・東海道」のように駅名が印字される場合もあります.どのような場合に路線名表記になり,またどのような場合に特殊経由線表記(駅名表記)になるのかを調べてみます.

なおどちらになるかは,本質的にはマルス経由線として「根岸線」のような路線名を用いるか,あるいは「根岸線横浜」のように特殊経由線を用いるか,によることがわかっています.したがって,マルス端末に入力した経路がどのように端末内でマルス経由線に置き換えられて発信されるかという問題に帰着します.これに関して,経路自動案内を用いる場合は,同じ経路ならどの端末で発券しても同じ経由印字になりますが,経路入力の場合は端末によってどのような経由印字になるか(したがってどのマルス経由線に置き換えられるか)が異なることがあります.

b. マルス端末への入力方法

路線名表記と特殊経由線表記(駅名表記)のどちらが用いられるかは,マルス端末への入力方法によって異なります.

  1. 経路入力(MR / ME形端末)
  2. 経路自動案内(MR / ME / MV形端末)
  3. 経路入力で特殊経由線を選択(ME形端末)
  4. カナコード入力(ME形端末)

現在一般的に用いられているのは1と2ですので,まずこれらについて説明します.なお,「経路自動案内」はME形端末では「経路選定」と呼ばれます.

c. 特殊経由線表記と路線名表記

i. 概要

路線名表記と特殊経由線表記(駅名表記)のどちらが用いられるかを入力方法ごとに簡単にまとめると表1のようになります.ただし越後線,赤穂線,呉線,宇部線(d. 例外)はこれに当てはまりません.また大都市近郊区間内相互等の乗車券で経路補正が行われた場合もこれに当てはまらないことがあります.

表1:特殊経由線表記と路線名表記
経路自動案内経路入力
内方から特殊経由線表記特殊経由線表記
外方から路線名表記特殊経由線表記
通過路線名表記路線名表記
別路線から路線名表記路線名表記
接続駅印字路線名表記路線名表記

まず,特殊経由線が設定されている線区(以下,単に「特殊経由線」と呼ぶことがあります)がそれぞれ別の2駅で接続している線区のことを母線と呼ぶことにします.たとえば,五能線は東能代駅と川部駅の2駅で奥羽本線と接続していますので,五能線が特殊経由線,奥羽本線が母線ということになります(図1).

            能代-[五能線]-深浦-藤崎    (←特殊経由線)
            |           |
            |           |
       (外方) |    (内方)   | (外方)
-秋田-[奥羽本線]-東能代--大館--弘前--川部--青森 (←母線)
図1:奥羽本線と五能線

母線は,特殊経由線との位置関係により,外方の部分と内方の部分に分けることができます.たとえば奥羽本線福島-秋田-東能代間と川部-青森間は五能線から見て外方である一方,奥羽本線東能代-大館-弘前-川部間は内方にあります(図1).

特殊経由線の一方の接続駅から母線とは別の路線が分岐していることがあります.たとえば根岸線大船駅からは,その母線である東海道本線とは別の路線である横須賀線が分岐しています(図2).

-沼津--[東海道本線]--大船-----------横浜--品川--東京 (←母線)
        (外方) /|            |
            / |(内方)    (内方)|(外方)
  (別路線)    /  |            |
久里浜--[横須賀線]   本郷台-[根岸線]-関内-桜木町     (←特殊経由線)
図2:東海道本線/横須賀線と根岸線

特殊経由線の途中駅から別の路線が分岐していることもあります.たとえば埼京線武蔵浦和駅からは,武蔵野線が分岐しています(図3).

                        |
                      [武蔵野線]
                        |
                       東所沢
                        |
             北赤羽-[埼京線]-武蔵浦和---北与野 (←特殊経由線)
             |          |      |
-尾久--[東北本線]--赤羽--------南浦和----大宮- (←母線)
                        |
                       西船橋
図3:東北本線と埼京線(トウホ4)

ii. 内方

少なくとも一方の接続駅を母線の内方から(あるいは内方へ)進む場合は特殊経由線表記になります.これは経路自動案内の場合でも,経路入力の場合でも同じです.特殊経由線内発着の場合でも,特殊経由線を通過してほかの路線に進む場合でも,特殊経由線を通過して特殊経由線の終点着(あるいは発)の場合でも同じです.

内方から(1)
大館→深浦/経由:奥羽・能代
内方から(2)
弘前→深浦/経由:奥羽・藤崎
両方が内方
大館→弘前/経由:奥羽・能代・藤崎・奥羽
片方が内方(1)
大館→青森/経由:奥羽・能代・藤崎・奥羽
片方が内方(2)
秋田→弘前/経由:奥羽・能代・藤崎・奥羽
片方が内方(3)
大館→川部/経由:奥羽・能代・藤崎
片方が内方(4)
弘前→東能代/経由:奥羽・藤崎・能代

iii. 外方

母線の外方から特殊経由線へと進み,かつ特殊経由線を通過しない場合(あるいはその逆の場合)は,経路自動案内の場合は路線名表記,経路入力の場合は特殊経由線表記になります.なお,特殊経由線を通過しない場合とは,特殊経由線内の途中駅止まりとなる場合,あるいは特殊経由線内の途中駅から別路線に進む場合のことを言います.

経路自動案内
  • 外方から途中駅止まり:秋田→深浦/経由:奥羽・五能
  • 外方から別路線:尾久→東所沢/経由:東北・埼京
経路入力
  • 外方から途中駅止まり:秋田→深浦/経由:奥羽・能代
  • 外方から別路線:尾久→東所沢/経由:東北・北赤羽

iv. 通過

母線の外方から特殊経由線を通って母線のもう一方の外方へと通過する場合は路線名表記になります.これは経路自動案内の場合でも,経路入力の場合でも同じです.

外方から通過
秋田→青森/経由:奥羽・五能・奥羽

社線連絡券の場合,通過(経路入力)でも特殊経由線表記になることがあります(twitter).ただしこの例の赤穂線はd. 例外に当たりますので,すべての特殊経由線であてはまるかどうかは不明です.

v. 別路線

特殊経由線から別路線へ(から)母線との接続駅を経由して進む場合は路線名表記になります.

外方と別路線
東京→久里浜/経由:東京・新幹線・品川・東海道・根岸線・横須賀線

別路線へ(から)進んでいても特殊経由線表記になっているように見える場合がありますが,その場合はもう一方の接続駅の側に特殊経由線表記になる原因があるはずです.以下では東海道本線横浜駅を接続駅として母線の内方から進んでいます.なお,以下の区間に関しては大都市近郊区間内相互のため,マルス端末で実際に発売する際には補正禁止の操作が必要です.

内方と別路線
保土ケ谷→久里浜/経由:東海道・桜木町・本郷台・横須賀線

vi. 接続駅印字

接続駅(新幹線の乗換駅など)が印字される場合,経路自動案内の場合でも経路入力の場合でも路線名表記になるようです.

接続駅印字
新横浜→西大井/経由:新横浜・新幹線・品川・横須賀線

品鶴線品川-新川崎-鶴見間は,東海道本線を母線とする特殊経由線で,マルス券での印字は「横須賀線」/「西大井・新川崎」です.ただし接続駅が印字される場合のほとんどがd. 例外に属する場合ですので,これが当てはまらない場合の方が多いと言えます.

vii. まとめ

特殊経由線が設定されている線区の経由印字は特殊経由線表記(駅名表記)とすると明確に経路を表すことができ,特に母線の内方から(へ)進む場合(ii)は特殊経由線表記が用いられます.ただし路線名表記になる場合もあります.接続駅が印字される場合(vi),別路線から(へ)進む場合(v)は経路が不明確になる恐れがないため路線名表記が用いられます.ほかに母線の外方から特殊経由線を通過して母線の外方へ抜ける場合(iv)も,発着駅を見るか,あるいはどの路線から母線に入り,母線からどの路線に抜けるか(すなわち特殊経由線の2つ前と2つ後の路線)がわかれば経路が不明確になる恐れがありませんので路線名表記が用いられます.母線の外方から特殊経由線へと進み,かつ特殊経由線を通過しない場合(iii,あるいはその逆の場合)は経路自動案内では路線名表記が用いられますが,これは外方から特殊経由線へと進むのが「ふつう」であるからだと考えられます.

以上のように,(現在では)誤解の恐れがない限り路線名表記の方が好まれます.これは特殊経由線表記の場合,「逢隈」「椎柴」のように一般にはなじみのない駅名が経由欄に印字されるのを極力避けるためと考えられます.

d. 例外

はじめに

以上の原則は,次の路線には当てはまりません.

  1. 越後線
  2. 赤穂線
  3. 呉線
  4. 宇部線
  5. 長崎本線長与支線[東園別線]

これらの路線についてまとめると表2のようになります.いずれも新幹線との接続駅をもち(分岐駅通過特例により,実質的に新幹線との接続駅をもつ場合を含む),かつその新幹線と同一路線と見なされない路線である,という共通した特徴があります.

表2:特殊経由線表記と路線名表記(越後線・赤穂線・呉線・宇部線)
経路自動案内経路入力
内方から特殊経由線表記特殊経由線表記
外方から特殊経由線表記特殊経由線表記
通過特殊経由線表記?(*1)路線名表記
別路線から特殊経由線表記路線名表記
接続駅印字特殊経由線表記路線名表記
母線との接続駅発着特殊経由線表記特殊経由線表記?
線内各駅相互間(*2)路線名表記路線名表記
  1. 山陽本線相生-東岡山間○と赤穂線,山陽本線新山口-宇部間○と宇部線はそれぞれ選択乗車区間です.経路自動案内では選択乗車区間のうち遠い方(○の付されていない方,運賃の高額な方)を経由する乗車券を発売しようとしても,近い方に補正されて発売されますので,外方から通過する場合はそもそも存在しません.ただし旧えきねっと(2021/06/26まで運用)では発売することができ,通過の場合でも「山陽・西相生・大多羅・山陽」「山陽・上嘉川・岩鼻・山陽」のように特殊経由線表記になっていました.山陽本線三原-海田市間○と呉線は経路特定区間ですので,経路自動案内の場合でも経路入力の場合でも,外方から通過する場合は通常はありません(経路特定区間を二度通るような場合のみ可能).
  2. 母線との接続駅発着の場合を除く.

母線との接続駅発着

これらの特殊経由線では,本来特殊経由線表記を用いるべきでない場合についても特殊経由線表記になってしまう場合があります.

たとえば呉線に関して,「三原→竹原/経由:須波」のように,母線との接続駅を発駅とし,線内の途中駅を着駅または接続駅とする場合(あるいはその逆の場合),(少なくとも経路自動案内の場合は)特殊経由線表記が用いられます.一方母線との接続駅を発着駅としない場合は「坂→水尻/経由:呉線」のように路線名表記になります.

特殊経由線内相互でも特殊経由線表記になる場合

特殊経由線内相互間(母線との接続駅発着の場合を除く)の場合は,経路自動案内の場合でも,経路入力の場合でも「出雲崎→小木ノ城/経由:越後」のように路線名表記になります.

ただしマルス端末では,特殊経由線内相互発着の乗車券で,かつ母線との接続駅が発駅にも着駅にもならない場合に特殊経由線表記になってしまうことがあります(twitter).この例では次のようになっていると考えられます.まず,「三原→安芸長浜/経由:須波」を発券します(券番20296-01).この状態ではマルス端末に「呉線三原」(印字は「須波」)が記憶されています.このまま「安芸長浜→安芸津」を入力して「発信」します(券番20298-01).この区間は母線との接続駅を発着駅としていないので,「坂→水尻/経由:呉線」の場合のように,マルス経由線としては本来「呉線」(「呉線三原」ではなく)を用いるべきです.しかし「呉線三原」(三原-矢野間)も安芸長浜〜安芸津間を含んでいます.そのため,今マルス端末に記憶されている「呉線三原」でもYes回答が出てしまい,「安芸長浜→安芸津/経由:須波」という経由印字で発券されます.なお,券番20297-01に当たるものは乗変に伴う自動控除と思われます.

越後線に関する次の例も同様と思われます(twitter / twitter).すなわち直前に「出雲崎→柏崎/経由:柏崎」という乗車券を発売した後に「出雲崎→分水/経由:柏崎」または「出雲崎→妙法寺/経由:柏崎」という乗車券を発売したものと思われます.

指定席券売機では直前のマルス経由線を記憶しておくことは不可能だと思われますので,このようなことはできないと思われます.

このような現象は,(経路自動案内や,経由線と接続駅とを組み合わせて入力していく経路入力の方式がまだない)昔のマルス端末ではふつうに起こりうるものでした.カナコードによる経路入力では,たとえば「出雲崎→分水」という乗車券は,特殊経由線内完結のため「エチコ」(経由印字は「越後」)で入力するのが正しいとされていましたが,「エチコカ」(越後線柏崎-白山間,経由印字は「柏崎」)あるいは「エチコニ」(越後線新潟-東柏崎間,経由印字は「白山」)でもこの区間は含まれていますから,これらで入力することもできてしまいます.その場合には経由印字が「柏崎」や「白山」のように正しくないものになってしまいます.

なお,MR形端末とは異なりME形端末では,現在も経路入力で「越後線柏崎」のような特殊経由線を選択することができます.あるいはカナコードで「エチコカ」を入力することもできます.これらの場合,「経由:柏崎」のように特殊経由線表記になりますので,上に挙げた「出雲崎→分水/経由:柏崎」または「出雲崎→妙法寺/経由:柏崎」という乗車券の例は,上に挙げた呉線の場合(MR形端末で発券)とは異なっている可能性もあります.

e. 特殊経由線入力とカナコード入力(ME形端末のみ)

MR形とME形に共通の経路入力と経路自動案内(経路選定)以外の方法もあります.ただしこれらは現在ではME形端末(ME-4形)でのみ可能です.

まずME形端末では,先ほどの経路入力の際に,MR形端末(現在はMR-52形)とは異なり,「根岸線」のような通常の路線名に加えて「根岸線横浜」のような特殊経由線選ぶことができます.これを選んだ場合,必ず特殊経由線表記になります.なお,「ME形端末では経路入力の際に特殊経由線を選ばなければ入力できない」というわけではありません.特殊経由線でなく通常の路線名を選んで入力することができる場合があります.ただし,特殊経由線の設定されている路線において,内方から(内方に)進む経路がどちらか少なくとも一方の端に含まれている場合,少なくともその路線に関しては特殊経由線で入力する必要があります.例えば次のような例があります.

仙台→いわき/経由:東北・常磐
[東北本線]岩沼[常磐線](岩沼を通り抜ける形):[常磐線岩沼]にしなくても発券できます.
成田→八街/経由:酒々井・総武
[成田線佐倉]佐倉[総武本線](佐倉で折返す形):「[成田線]佐倉[総武本線]」ではエラーになります.
大館→能代/経由:奥羽・能代
[奥羽本線]東能代[五能線東能代](東能代で折返す形):「[奥羽本線]東能代[五能線]」ではエラーになります.
秋田→五所川原/経由:奥羽・藤崎
[奥羽本線]川部[五能線川部](川部で折り返す形):「[奥羽本線]川部(!)[五能線]」では能代(!)経由で発券されてしまいます.

特に「秋田→五所川原」の場合に「[奥羽本線]川部[五能線]」と入力すると,ME形端末の経由欄には「[奥羽本線][五能線]」と入力され(川部経由を指定しているにもかかわらず)「秋田→(能代経由)→五所川原」という乗車券が発券されてしまうようです.したがってME形端末の経由欄に「[奥羽本線][五能線]」のように(特殊経由線ではなく)路線名が入力された場合,必ず外方から(外方に)進む経路を表しているということになります.そのため上の「大館→能代」のように,内方から(内方に)進む経路しか存在しないような場合,必ず特殊経由線を指定しないとエラー(カナコード誤り)になるようです.なお,下3つは情報提供をいただきました.ありがとうございます.

またME形端末には,現在でもカナコード入力の機能が残されています.これを用いた場合にも,必ず特殊経由線表記になります.

ただし,特にカナコード入力を行う必要がある場面は,現在では皆無と言っても過言ではありません.そのため,カナコード入力をお願いしても引き受けてもらえる可能性は低いと思っておいた方がよいでしょう.経路入力の際に特殊経由線(たとえば「根岸線横浜」)を選択する方法の場合は,多少は引き受けてもらいやすいかもしれません.

B. 特殊経由線とは?

a. 路線名表記では経路が不明確になる場合

以下では特殊経由線が設定されている理由について考えます.

マルス券には「東京→御茶ノ水/経由:中央東」のように経由路線が表記されています.これにより経由の異なる乗車券を区別することができます.ただし経由路線の表記では,経由を判別できないことがあります.たとえば根岸線関内駅から東海道本線沼津駅までの乗車券の場合,「経由:根岸線・東海道」とすると経路が二通り考えられるように思えます.根岸線は東海道本線と,大船・横浜の二駅で接続しているからです(図2参照).「関内(根岸線横浜方面)横浜・沼津」と進むようにも見えますし,「関内(根岸線大船方面)大船・沼津」と進むようにも見えます.この場合,関内と横浜の間にある根岸線桜木町駅を用いて「関内→沼津/経由:桜木町・東海道」のように表せば明確に表すことができます.

なお,大都市近郊区間内相互の乗車券であればほかの経路を選択して乗車することができます.たとえば「関内→熱海」(東京近郊区間内相互)の乗車券であれば前述のどちらの経路でも乗車できますが,沼津駅は東京近郊区間を外れていますので,この場合経路どおりの乗車券を購入する必要があります.

b. マルス経由線と特殊経由線

さて,マルス経由線(参考の1参照)でもやはり同じ問題があります.マルス経由線にはカナコードが用意されていますので,これを用いて表すことにすると,たとえば「ネキシ・トウカ」では大船と横浜のどちらで接続するのかが判定できません.この場合「ネキシヨ」(「根岸線横浜」の意味)というマルス経由線が用意されていますので,これを用いて「ネキシヨ・トウカ」として横浜経由であることを,あるいは「ネキシオ」(「根岸線大船」の意味)を用いて「ネキシオ・トウカ」として大船経由であることを示します.このネキシヨやネキシオを「特殊経由線」と呼びます.

これを用いて根岸線は「特殊経由線が設定されている線区である」のように言われます.また以下ではより簡単に「根岸線は特殊経由線である」と言ってもよいこととします.さらに「(特殊経由線である)根岸線に対して東海道本線は母線である」と言うことにします.後者二つは一般的な言い方ではないため,使うときは注意を要します.

さて,先ほどの「関内→沼津/経由:桜木町・東海道」の乗車券では,特殊経由線ネキシヨが「桜木町」で表されています.マルス券では接続駅(この場合横浜駅)から特殊経由線側の一つ内方の駅が印字されるのがふつうです.ただし越後線柏崎は「柏崎」,筑豊本線原田は「原田」,東北本線尾久支線日暮里接続は「日暮里」と接続駅自体が印字されます.マルス券以外では異なることがあります.JR東日本,JR西日本,JR四国,JR九州のPOS端末により発券された乗車券では路線名と接続駅(この場合「根岸線・横浜」)が印字されます.

c. 特殊経由線一覧

表3:特殊経由線一覧
No. 特殊経由線 区間 特殊経由線表記 母線 備考
1. 函館本線2砂原支線 大沼-渡島砂原-森 鹿部・東森 函館本線 経(*2)
2. 室蘭本線 長万部-岩見沢 静狩・志文(*7) 函館本線
3. 五能線 東能代-川部 能代・藤崎 奥羽本線
4. 越後線(*1) 柏崎-新潟 柏崎・白山 信越本線
5. 常磐線 日暮里-岩沼 三河(島)・逢隈(*8) 東北本線
6. 東北本線4(埼京線) 赤羽-武蔵浦和-大宮 北赤羽・北与野 東北本線
7. 東北本線2尾久支線(*3) 日暮里-尾久-赤羽 日暮里/東北 東北本線
8. 中央本線2 岡谷-辰野-塩尻 川岸・小野 中央東
9. 成田線 佐倉-松岸 酒(々)井・椎柴 総武本線
10. 内房線 蘇我-安房鴨川 浜野・太海 外房線
11. 品鶴線(東海道本線3) 品川-新川崎-鶴見 西大井・新川崎(*4) 東海道本線
12. 根岸線 横浜-大船 桜木町・本郷台 東海道本線
13. 御殿場線 国府津-沼津 下曽我・大岡 東海道本線
14. 赤穂線(*1) 相生-東岡山 西相生・大多羅 山陽本線 選(*5)
15. 呉線(*1) 三原-海田市 須波・矢野 山陽本線
16. 岩徳線 岩国-櫛ケ浜 西岩国・(周防花岡 山陽本線
17. 宇部線(*1) 新山口-宇部 上嘉川・岩鼻 山陽本線
18. [ME] 予讃本線向井原/伊予大洲(*6) 向井原-伊予長浜-伊予大洲 高野川・五郎 内子総称線
19. 筑豊本線 折尾-原田 東水巻・原田 鹿児島本線
20. 長崎本線2東園別線 喜々津-本川内-浦上 東園・西浦上 長崎本線
  1. 越後線,赤穂線,呉線,宇部線は経由印字が路線名表記になるか,特殊経由線表記になるかの原則がほかの特殊経由線とは異なります(A. 経由印字 - d. 例外).
  2. 備考欄の「経」は「経路特定区間」の略です.経路特定区間は,もう一方の経路とまたがる場合(旅客営業規則69条)か後で(前に)通る場合(基準規程109条)でないと利用できません.
  3. 尾久支線は特殊経由線(日暮里-尾久)をもち,特殊経由線表記は「日暮里」です(blog).ただしほとんどの場合特殊経由線表記は現れません.尾久支線は70条区間内に含まれますので,70条区間を通過する場合は母線の内方から尾久支線に入る(から出る)経路で運賃計算を行うことはありません.また70条区間発着または区間内相互の場合も基本的には最短経路で運賃計算を行いますから,同様に母線の内方から尾久支線に入る(から出る)経路で運賃計算を行う場合は限られています.「(中)大久保→尾久/経由:中央東・山手・東北」は母線の内方から尾久支線に入っていますが,特殊経由線表記は使われていません.70条区間発着または区間内相互の場合に,母線の内方から尾久支線に入る(から出る)経路を(わざわざ)指定するときは,補正禁止を指定する必要があります.補正禁止を指定した場合は特殊経由線表記である「日暮里」は現れません.不思議なことに,結局「日暮里」が現れるのは,たとえば「尾久→三河島(以遠)」の経路で赤羽経由を指定し,(大都市近郊区間内相互あるいは70条区間内発着の際の)経路補正を行ったときに限られます.なお,母線である東北本線日暮里-王子-赤羽間は,70条区間内発着の場合に「山手・東北」と印字されます.
  4. 経由印字の「西大井」は,以前は「品川」でした(jr-mars).
  5. 備考欄の「選」は「選択乗車区間」の略です.選択乗車区間はどちらの経路の乗車券でも乗ることができます.
  6. 以下のd. 予讃本線と内子総称線をご覧ください.
  7. 2006年3月までは「静狩」ではなく「旭浜」でした(twitter).さらにさかのぼると,旭浜駅は1987年3月までは仮乗降場であり,営業キロが設定されたのが1990年3月ですので,古くは「静狩」と印字されていました(twitter).
  8. 以前は「逢隈」ではなく「亘理」でした.

d. 予讃本線と内子総称線

予讃線は,MR形端末で発行した乗車券の場合,特殊経由線表記が現れることはありません.ME形端末でも,経路選定(経路自動案内に相当)と,(通常の路線名による)経路入力を行った場合は特殊経由線表記が現れることはありません.ME形端末でカナコード入力を行った場合にのみ特殊経由線表記になります.なお,伊予長浜などの接続駅を選択できない関係で,予讃本線向井原/予讃本線伊予大洲といった特殊経由線による経路入力を行うことはできません.

予讃線に関わるマルス経由線は複雑です.本来は向井原-伊予長浜-伊予大洲間の方が本線で,向井原-内子(予讃線2)・新谷-伊予大洲(予讃線3)の方が支線です.しかしMR形端末では「予讃本線」は高松-向井原-内子-新谷-伊予大洲-宇和島となっており,向井原-伊予長浜-伊予大洲間は「五郎別線」になっています.これは予讃線向井原-伊予長浜-伊予大洲間と予讃線2+内子線+予讃線3向井原-内子-新谷-伊予大洲間が選択乗車区間であり,かつ内子経由の方が低額な経路であるため,経路入力の際に誤って高額な方(五郎別線経由)の乗車券を作ってしまうことのないようにするためと思われます.たとえば,「松山→宇和島」の乗車券を作るのに,「予讃本線」と入力するだけで内子周りを指定することができれば便利,というわけです.経由印字は「松山→宇和島/経由:予讃・内子線・予讃」になります.五郎別線経由の場合,五郎別線は(本来の)予讃本線に置き換えられますので「松山→宇和島/経由:予讃」となります.

一方ME形端末では,高松-向井原-伊予長浜-伊予大洲-宇和島間が「予讃本線」ではあるものの,内子総称線(予讃本線2・内子線・予讃本線3)が設定されています(MR形端末では内子総称線は設定されていません).したがって,前述の「松山→宇和島」の乗車券は,ME形端末では[予讃本線][内子総称線][予讃本線]と入力することになるようです.さて,予讃本線と内子総称線は向井原と伊予大洲で接続しています.前述の「松山→宇和島」の乗車券のように,内子総称線を外方から外方へ通り抜ける場合は問題ありませんが,内方に折返す場合,たとえば「内子→伊予長浜」のように進む場合は,向井原周りなのか,伊予大洲周りなのか,明示する必要があります.そのため向井原-伊予長浜-伊予大洲間には「予讃本線向井原」「予讃本線伊予大洲」という特殊経由線が設定されています.内子総称線から向井原または伊予大洲周りで伊予長浜方面に折返す際には必ず特殊経由線で入力(かつカナコード入力)する必要があります.経由印字は「内子→伊予長浜/経由:内子線・五郎」あるいは「内子→伊予長浜/経由:高野川」のようになります.

ではME形端末では,「内子→伊予長浜」のような乗車券を経路入力で作る場合に,カナコード入力が必須になるかというと,そうでもなさそうです.たとえば[内子線][予讃本線3][予讃本線]のように入力すれば,伊予大洲周りと判断できます.すなわち内子総称線を用いずに入力することができるものと思われます.経由印字は「内子→伊予長浜/経由:内子線・予讃」あるいは「内子→伊予長浜/経由:予讃」のようになると思われます.

予讃本線と内子総称線に関してはME形端末の方が「ややこしい」ですが,経由印字の点では優れている点もあります.内子〜新谷間の駅(両端を含まない)発着の乗車券で,伊予長浜方面経由の乗車券を作るとき,(ほとんどどの経路の指定方法でも)経由印字は向井原周りも伊予大洲周りも「五十崎→下灘/経由:内子線・予讃」になってしまい,区別ができませんが,ME形端末でカナコード入力を行った場合は「五十崎→下灘/経由:内子線・五郎」あるいは「五十崎→下灘/経由:内子線・高野川」のようになって区別できます.

C. 経路補正が行われた場合

a. はじめに

大都市近郊区間内,またいわゆる70条区間や経路特定区間では,経由駅を明示的に入力して遠回りの経路を指定しても,最安経路に自動補正されます.自動補正が行われると,本来は特殊経由線表記にならない場合でも特殊経由線表記になることがあります.なお,自動補正の仕組みを直接知ることは一般の利用者にはできませんので,以下では指定席券売機で発券した場合(指定席券売機の経路自動案内の場合)で考えます(マルス端末では異なることがあります).

b. 内房線

たとえば「本千葉→浜野」の乗車券の経由表記を特殊経由線表記にしてみましょう.

まず,指定席券売機の[乗車券]メニューで発駅:本千葉,着駅:浜野を入力して発券した場合,経由表記は「経由:外房・内房」と路線名表記になります(乗車券1).

本千葉→浜野/経由:外房・内房
乗車券1:経由路線表記(本千葉→浜野)

次に,特殊経由線表記にするために,母線の内方(外房線鎌取〜安房天津間)から蘇我に入るようにしてみます.迂回して東金線経由にすれば内方から入ることができます.指定席券売機では次のようにします.

[乗換案内]
成東経由
[乗車券]
本千葉乗車,千葉→成東間特急,普通列車で浜野着

すると乗車券2のように「経由:外房・浜野」と特殊経由線表記になります.

本千葉→浜野/経由:外房・浜野
乗車券2:特殊経由線表記(本千葉→浜野)

同様に,京葉線から内房線に入る場合でも,特殊経由線表記にすることができます.たとえば次のようにします.

[乗換案内]
船橋・成東経由
[乗車券]
千葉みなと乗車,船橋→成東間特急,普通列車で浜野着

すると乗車券3のように「経由:京葉・浜野」と特殊経由線表記になります.

千葉みなと→浜野/経由:京葉・浜野
乗車券3:特殊経由線表記(千葉みなと→浜野)

c. 埼京線

西船橋→北戸田は最短が王子経由ですが,この場合埼京線には外方から入ることになります.経由に特殊経由線は現れません(乗車券4).

西船橋→北戸田/経由:総武・埼京
乗車券4:経由路線表記(西船橋→北戸田/経由:総武・埼京)

一方,武蔵野線経由(南流山経由等)で埼京線に入る場合,特殊経由線表記が現れます(乗車券5).

西船橋→北戸田/経由:総武・北赤羽
乗車券5:特殊経由線表記(西船橋→北戸田/経由:総武・北赤羽)

d. 不思議な特殊経由線表記(埼京線+常磐線)

以上のことを用いると,乗車券6のように変わった経由のマルス券を発券させることができます.

[乗換案内]
東浦和・馬橋経由
北赤羽→三河島/経由:北赤羽・三河島
乗車券6:北赤羽→三河島/経由:北赤羽・三河島

赤羽-日暮里間は70条区間通過のため経由が印字されません.

今度は逆に特殊経由線表記ではなく,経由路線表記にしてみます(乗車券7).

[乗換案内]
王子・駒込・千駄ケ谷経由
北赤羽→三河島/経由:埼京・常磐
乗車券7:北赤羽→三河島/経由:埼京・常磐

さらに,片方だけ特殊経由線表記にしてみます(乗車券8).

[乗換案内]
尾久経由
北赤羽→三河島/経由:埼京・三河島
乗車券8:北赤羽→三河島/経由:埼京・三河島

D. 参考

  1. 路線名の略号 - 旧式マルスの入力コードとMARS for MS-DOSのデータ

改版履歴

2022/12/30
予讃本線向井原/予讃本線伊予大洲の説明を追加(B.d).
2022/08/23
長崎本線長与支線(東園別線)の例を追加(A.d).
2021/11/28
社線連絡券の場合通過でも路線名表記にならない例を追加(A.c.iv).
2021/08/08
経路自動案内と経路入力で結果が異なることが判明したので,それに合わせて全面的に改訂.
2020/05/17
「4, 特殊経由線/路線名表記」「c. 外方」に,越後線の場合は,外方から入って特殊経由線内を通過しても特殊経由線表記が用いられることを追加.
2020/04/28
「4, 特殊経由線/路線名表記」の乗車券の例に画像と参考例(リンク)を追加.
2020/04/27
「4, 特殊経由線/路線名表記」の「c. 外方」の,外方からの場合でも特殊経由線表記になる路線に越後線を追加.
2020/04/26
「4, 特殊経由線/路線名表記」を内方・外方・特殊経由線内分岐等の節に分割し,特殊経由線表記と路線名表記になる場合を少し詳しく記述.
2020/03/17
初版.